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刻の本

古びた本は 今も昔も刻(とき)を刻む。

Dramatic Record ~残された子~

残る痕跡、そして感じる気配。
着いたのは西北の果てに在る島。
しかし辿り着いたそこで目にしたものは――…。


*****


「ひでぇ」

ぽつりと呟いたのは誰か。
部隊の仲間であるのは確かである。

少し前から問題になっていた性質の悪い魔物の集団。
あのエリアルに存在する魔導ギルド達が敵わなかった相手。
大国ウェルディアからの依頼で結成されたのは力ある能力者達による討伐隊だ。

いくつかの部隊に分かれ、そして魔物たちを追ってたどり着いた最果ての島は。
家屋は焼かれ、木々は斬られ。
そこかしこに島人の亡骸が転がっている。

討伐隊の面々はまた一つ集落が消えたと、間に合わなかったと悔やむ。

未だ煙の燻っている家屋の残骸に、魔物が襲撃してからそれほど時間が経っていないことが伺える。
しかしこの場に魔物の姿はなかった。

「生きている者がいないか探せ。死体は一か所に、丁重に埋葬するんだ」

部隊長の指示に、部隊の者たちは散開する。
崩れた家屋は瓦礫を退け、崩れていない家は中を調べる。
辺りに転がる死体は協力して集落の中央へと運び。

そんな中、集落の外れにある屋敷へ入っていく人物が数人。

肩甲骨まである青い髪を項で結った、同色の瞳を持つ青年と。
青みがかった銀が緩く波打つ長髪に薄氷の瞳を持つ女性。
そして漆黒の短髪に紅玉の瞳を持少年だ。

ゆっくりと辺りを確認しながら進む彼らは、訝しげに顔を顰めていた。

「ここ、魔物の気配だけが残っているのではないみたいね」
「ああ。闇以外の属性の気配がしっかり残ってやがる」
「でも、今まで感じた事のないものも交じってるぜ?」
「そうね…この冷たい感じ、いったい何かしら」

冷やりとした寒さを感じる気配。
闇に感じるうすら寒さとは違う凛とするようなそれに、疑問を感じながら一際気配の強く残る場所へ足を向ける。

途中、縁側の傍で胸を穿たれた男性の亡骸を見つけ漆黒の短髪の少年―――エンが、
それを他の仲間のいる場所へと運ぶために分かれた。
残った青年と女性はそれを見送ると再び気配の濃い場所、屋敷の奥へと歩みを進める。

*****

「これは…」
「なんだこりゃ」

たどり着いた屋敷の奥の一室には、女性の亡骸と巧妙に隠されてはいるがうっすらと感じる魔法。
実に巧妙に隠されているその魔法の気配は女性の亡骸の背後から感じる。
ゆっくりと女性―――ユキメが亡骸の背後に近づき手を伸ばすと、それは気配と共に姿を現した。

現れたのは結界。
中に何を守っているのかは判らないが、この結界を張ったのは恐らく今は亡骸と化しているこの女性であろう。

結界は周囲に危険がないからか、フッと消滅し守っていた何かを現す。
守られていた何かが姿を現し、2人は思わず唖然とした。
そして零れたのがつい先程の言葉である。

現れた何かとは、漆黒の球体。

一瞬魔物の残りかとも思ったが、闇の気配は感じるもののそこに禍々しさはない。
いったいどういう事かと2人が見つめる最中で、漆黒の表面が波立った。

「ユキメ、下がれ」
「ええ」

即座に戦闘態勢へと入った2人が警戒する中それは波立ちを止めることはなく。
ユラユラとしばらく波立っていた球体はやがて形を崩してゆく。

「…獣?」
「これは、精霊か…!」

崩れた漆黒が別の形を取ったと思えば、それは獣を形取った。
そしてその獣の足元は影と同化し、獣の胴の下には影の持ち主である幼子が倒れ伏している。
今まで隠されていた幼子の姿が現れたことではっきりと感じ取ることができた“絆”に、
幼子とこの漆黒の獣が主従である事が判り。
それにより漆黒の獣が精霊である事も判った。

「闇属性の精霊だなんて」
「随分と珍しい。それに、このガキの能力も」

まだ小さいというの精霊を従えるとはな。
青年―――リュウオウはそう呟くと幼子に近づこうとし…。

「どわ!?」

漆黒の獣の攻撃に遭う。

瞬時に実体を持った幼子の影が鋭い切っ先を持ちリュウオウを襲う。
幾筋もの実態を持った影は絶え間なく彼を襲い、近づくことを許さない。
ユキメが慌てて結界を張るも影は彼女の張ったそれを侵食するように吞みこんでいく。

「っんの!」

影を操っているのは間違いなく幼子に覆い被さる獣。
主を守る行動だとはしてもこれではどうすることもできないと、リュウオウは腕に絡ませていた薄桃色の絹布を手に取り。

「舞え、撫游」

一言、絹布を振り言うとそれは魔力を帯び始めた。
魔力を帯びた絹布は武器となる。
魔力によって時に硬度を持って対象を切り裂き、時に硬度を無くし優雅に舞うそれは正しく変幻自在。
それ自体が魔力に対する耐性を持つ特殊な武器、魔武器と呼ばれる代物だ。

「わりぃがしばらく大人しくしててもらうぜ」
「リュウオウ、気を付けて」
「わぁってる」

魔力を通わせ絹布を槍のような状態にしたリュウオウは、ユキメの声に返事をしつつ獣と相対する。
しばし互いに相手が動くか伺い、リュウオウが動こうとした瞬間。

「リュキュァ!」
「ぅお!?」
「リュウオウ!」

彼の顔面へと白い何かが突撃してきた。
それは鳴き声を上げ彼の頭にしがみ付く。
急だった事と頭にしがみ付いた物体に勢いがあったことでリュウオウは驚きバランスを崩して倒れ込んだ。
その様を見ていたユキメは慌てて彼へと近づき、白いソレを見て驚く。

「この子も、精霊」
「あぁ?」
「リュリュィ!?」

獣から感じる“絆”と同質のソレを感じ、彼女は言う。
その言葉にリュウオウは不機嫌そうな顔をして自身の頭部にしがみ付いていたそれを引き剥がした。

「マジかよ…」
「ね。この感じは獣と同じよ」

引き剥がしたリュウオウの手に掴まれているのは大きな猫か小さな犬ほどの滑らかな白い体躯に同色の翼、青藤色の瞳の竜だ。
ソレは怖さも迫力もないつぶらな瞳でリュウオウを睨み付け、ジタバタと暴れている。

「あのガキはいったい何匹と契約してんだよ…」

大した抵抗にもならず暴れている翼竜を片手でぶら下げた彼は、獣に覆い被さられている幼子を見やる。
未だ警戒心を剥き出しにしている漆黒の獣はしかし、今は攻撃をしてくる様子はない。
その事に少しほっとしたリュウオウは、変わらず翼竜をその手に下げたまま獣へと向き合い。

「そう警戒するな。俺達はお前たちの主を傷つけに来たわけじゃない」
「私たちはこの集落を襲った魔物たちを討伐するために結成されたジェノスの者よ。
 決してその子を傷つけたりしない。約束するわ」

リュウオウの言葉に続いてユキメも言い募る。
穏やかに、獣と視線を合わせ言うが、なかなか警戒心は薄れない。
それだけ主を守る気持ちが強いうという事でもあるが。

「とにかく、今はまだここに居るのは危険だ。魔物がまだ近くに居るかもしれない。そうなれば今度は無事では済まないぞ」
「魔物たちはどうやってか気配の一切を断てるの。一度気配を断たれれば次に気配を漏らすまでどこに居るのか判らないわ。
 だから、その子を安全な場所に移さなければいけないの」

そう、今回彼らが魔物に対しこれ程にも後手に回る事になったのは全てはソレのせい。
どうやってなのかは判らないが魔物たちの中に、或いは魔物たちが完全に気配を断ってしまうのだ。
一度気配を断たれれば魔物達が気配を漏らすまで気付くことは難しい。
この集落は魔物たちに襲撃されて間もなく、まだこの周辺に潜んでいる可能性が極めて高い。

だから、と漆黒の獣を説き伏せようとしていたのだが。

≪否≫

響くようにして声が聞こえる。

≪魔物は既に、居ない≫
「………お前か?」

続いて発せられた言葉に、リュウオウはしばらく考える風にして目の前にいる獣へと問うた。
喋っているのはお前か、と。

≪是≫

言葉の意味を正確に読み取った獣が肯定する。

「そうか。だが、どうしてそうだと判る」

頷いたリュウオウはしかし、眉間に皺を寄せて更に問う。
自分たちですら捉えられない気配、獣の守る幼子以外は恐らく生者はいないだろう集落。
ずっとここに居て幼子を守っていただろう獣に、どうして判るというのか。

≪闇は影の根底。ならば行方をたどるのはそう難しくはない≫
「は?」
≪我は深淵の闇。影は全て我が領域≫
「つまり、魔物達の影を辿り居場所を掴めるということ?」
≪是≫

何を行ったのかと怪訝な様子を見せるリュウオウとは違い、静かに話を聞いていたユキメは判ったようで。
獣の言った言葉用要約する。

「闇は、そんな事もできるのか」
≪否。影である我だからこそ≫
「…そうか」
「でも、やっぱりこの子をここに置いておくのはよくないわ。この子はまだ小さいもの、一人では生きていけない」
≪……≫

ユキメはそう言うと、倒れ伏した幼子の床に散る金色の髪を梳く。
サラリと零れる髪が微かな音を沈黙に包まれた部屋に響いた。

≪私は約束を交わした。そして自身にも誓っている、この方を守ると≫

獣は幼子の上からそっと退き、その子の頬へと鼻を擦り付ける。
その仕草だけでもこの獣がどれだけ幼子を大切に思っているのかが伝わってくるようで。

「なら、尚更よ。いっしょに行きましょう?」
≪……≫
「さっきも言ったように此処じゃガキが生きていく上にはキツイ。俺たちと来た方が楽だぜ?」

ユキメとリュウオウの言葉にしばらく沈黙していた獣は。
やがてゆっくりと口を開き。

*****

「お、戻ってきたか」
「ああ、遅くなって悪いな」

集落の中心部。
島人の亡骸を埋葬していた討伐隊のメンバーたちの許にリュウオウとユキメが合流する。
ようやく戻ってきた2人は、リュウオウは女性の亡骸を、ユキメは幼子を抱きかかえていた。

「この奥の亡骸はこの女性だけだ」
「この子供は生き残りよ。……結界に、守られていたわ」

メンバーの視線が集中するそれを説明する。
そうか、と誰ともなく言った言葉に重い沈黙が訪れ。

「その女性の亡骸をここへ。共に埋葬する」
「ああ」

リュウオウは言われたとおりに女性の亡骸を掘られた穴へと降りて横たえる。
彼が穴から上がったことを確認したメンバーたちが穴へと土を被せ。
埋葬が終わると女性メンバーたちが花を備えしばしの黙祷を捧げた。

*****

「それで、その子はどうする」

黙祷が終わりこの島には最早魔物はいないだろうと判断が下され一時帰還することが決まると。
部隊長たちが生き残った子をどうするかと話し合っていた。

「この子は俺達が預かろうと思う」
「お前たちが?」
「ええ」
「しかしなぁ…」

リュウオウたちの言葉に部隊長たちは唸る。

「その子は唯一の生き残りだし、色々騒がれるぞ」
「判ってるさ」
「私たちは、この子が心穏やかでいられるようにすると約束をしたから」
「約束?」
「ああ」

その約束とやらはなんなのか、誰と交わしたのか。
彼らはただ笑むだけで答えようとはしてくれなかった。







DR第6話お届けです。

途中で下書き保存(夕食のため)したので日付は21日ですがUPできたのは22日です。
これ書き上げるのに5時間かかったとか…あっれぇ?


さて、今回も前回に引き続き微妙に暗いです。
てかやーな感じに単語でてきててごめんなさい。

討伐隊は編成されましたが一足遅く。
島人は全滅。
屋敷の縁側近くの賛成は女帝の父、奥の部屋の女性は母です。

更にやな感じの補足をすると、胸部が穿たれてるのは魔物が心臓を抉り出したからです。
ほら、たまに心臓や内臓食べたら力が増すんだぜ的な設定の漫画とかあるじゃないですか。
正しくあれです。

DRの場合は心臓が魔力の核となっていて、だから心臓を食べると喰らった相手の魔力が自分に+αされて力の底上げになるんです。
女帝は最強なのでその両親もそれなりに力はあります。
なので食べられちゃった、と。

そして女帝と月影&白九龍の間にある“絆”というのはガーディアンとしての契約の事です。

月影が深淵の闇うんたらかんたら、影であるうんたらかんたらはそのまんま。
月影は闇であり影でもあるんです。
闇属性の、本質は影である、それが月影です。
なので影と影をつないで移動できたり影の中に潜めたりするんです。

んでもって、リュウオウとユキメはあのまま幼き女帝を引き取りました。
引き取って現在彼らが住んでいるウェルディアに連れて行きます。

まぁ、そのあたりの話は次回にでも致しましょう。
DR第6話にお付き合いくださりありがとうございます。
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