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古びた本は 今も昔も刻(とき)を刻む。
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~苦労人とその相手の場合~
「エン」
『食べる』と言って差し出されたのは。
紙袋の中へとぞんざいに入れられたであろう事が判るお菓子の山。
山と言っても紙袋に入っているあたり高が知れているが。
それでも持ち手の部分まで侵蝕して器用に積まれているそれは、それなりに重さがあるだろうにもかかわらず彼の腕の中でなんでもないかのように存在を主張していた。
「おー、今年も見事だな」
「・・・」
名を呼ばれた、肩につくかつかないかでザンバラに切られた漆黒の髪と鮮やかな赤い瞳を持つ青年---エンは、毎度のこととは言えいつ見ても見事なそれに感嘆の声を漏らした。
とは言え自分も同じくらいもらっているのでそれほどリアクションするほどでもないのだが、彼の元来の性格を考えれば普通の反応であろう。
「しっかし、わざわざ用意する子も不憫になぁ」
「・・・苦手」
何が不憫って、せっかく彼のために用意したこのチョコたちは彼の口に入ることはないのだから。
先ほど名を呼んだ彼、高い位置で一纏めにされた深紅の髪に灰色の瞳の青年---ゴウは、エンの言葉に対してポツリと反応を示した。
隠す必要もないのだから生徒間でも周知の事実だが、ゴウは甘いものが大の苦手だったりする。
必要に迫られれば摂取するが、それ以外では勘弁願いたいというのが彼の本音。
しかしそれを判っていても尚甘いお菓子を渡す女性たちはなんとも強かである。
「食べる」
「あー、はいはい。でもさすがにこの数をすぐにってのは無理だからな?」
「・・・(こくん)」
さて、もう既に気付いた人も居るだろう。
先ほどからなされている会話には些細なようでそうではない食い違いが。
明らかに『食べて』と言わなければいけないはずが『食べる』になっている現状に。
「ちなみにな、ゴウ。こーいう場合は『食べる』じゃなくて『食べて』、だろ。言葉は正しく使うようにっていつも言われてんだからいい加減直そうな?」
「・・・・・・」
ゴウは普段からあまり会話をしようとはしない。
何かを喋ったとしても端的すぎる言葉のせいで並みの相手では会話が成り立たないのだ。
彼の言葉を正確に理解し会話できるのは極小数の限られた人数だけ。
家庭環境はいたって普通だったはずだ、とエンは記憶している。(何せ自分は彼の幼馴染であり兄弟のように育ってきたのだから。)
しかし何がどうなってそうなってしまったのか、現状はこれである。
さすがにそれでは拙いだろうと多大なる危機感を覚えた周囲の人間が、それはもう涙ぐましい努力をしたのだが、残念なことに十数年近く経つ今でもあまり進展はない。
そして今現在でもエンによる言葉の訂正と会話の練習がなされている。
しかしその訂正にも当の本人は眉間に少ししわを寄せるだけでこれといって何か反応があるわけでもない。
「まぁ、お前のそれは今に始まったことでもないし半分諦めてるけどさ。せめてもう少し言葉の活用をしようぜ?」
「・・・・・・いい」
『必要ない、かまわない』とでも言いたいのか。
相変わらず眉間にしわを寄せたままに呟いた彼の言葉を正確に理解してしまったエンは、がくりと項垂れる。
そうして不意に頭を上げたかと思うと、ゴウの持っていた袋の中から包みを適当に一つ取り上げた。
「ったく、しゃーねぇ奴」
開けた包みからチョコを一つ取り出して口に入れ。
呆れている口調ではあるが彼の顔には少しばかりの笑顔が浮かんでいた。