Play11 生体記録 2012年07月30日 足を踏み入れたそこは、どうやらステージを意識したつくりになっている様だった。 奥へとまっすぐに伸びる床。 その両側には多くの人がひしめき合っている。 オレは人々の注目を集めつつ、ステージを奥へと進む。 少し歩いたところには、モデルらしい女性が一人。 どうやら彼女を倒さなければ奥へと進めないようだ。 「それじゃ、アンディ…頼む!」 『おうよ任せろ!』 オレの手持ちには地面タイプが居ないからと先発を任せたアンディ。 エレキブルへと進化していた彼はやる気満々といった風に両腕を振り回している。 そんな調子のアンディのおかげで難なく倒した3人目。 彼女の背後に続くステージを進むと、急に辺りが明るく照らされた。 「うわ、眩しい!」 一斉にスポットライトが当てられたそこ、段の高いステージ奥には黄色いもこもこ。 「……もこもこ」 『もこもこですね』 『暖かそう』 人だという事はわかる。 判るのだがしかし、もこもこである。 そしてそのもこもこが、急に片手を上げて動き出した。 「な、なに…」 『マスター、あれがカミツレ様なのでは?』 「いや、カミツレさんと言えばまっきいろ…黄色?」 よく見ると、そのもこもこはいたる所にカミツレさんらしき印象を与えるものが。 うん、あの人がカミツレさんなんだ。 もこもこすぎて誰なのか全然わからなかった。 そんな本人言うには失礼な事を考えつつ、止めていた歩みを再開する。 『アンテナだな』 『アンテナですね』 リイヤと出したままなアンディは、オレ以外に聞こえないのをいい事に言いたい放題だ。 ちくしょう、オレもその会話に混ざりたいだなんてそんな。 驚きすぎてちょっとキャラ崩壊してるのはご愛嬌だ。 「ようこそ、私のステージへ」 カミツレさんの目前で止まったオレに、彼女が急に語りかけてくる。 「私の愛しのポケモンたちとあなたのポケモン、どちらが本物かここで競いましょう!!」 「望むところです!」 シャイニングビューティーの異名を持つだけの事はある。 凛としたその姿と美しさはさすがトップモデルだ。 カミツレさんはモンスターボールからポケモンを、オレは既に場に出ていたアンディを互いにフィールドへと繰り出した。 ***** 「もう……あなたってば予想以上に素敵なトレーナーね」 やはりというかなんというか、オレは見事なまでに圧勝した。 アンディの特性で電気技を完封しつつ地震で倒す。 攻撃力の高いアンディの地震にカミツレさんのポケモンは耐えられず、彼女の切り札であったゼブライカにも梃子摺る事なく勝つことができた。 「ありがとう、アンディ」 『ま、俺にかかればこんなもんよ』 「ほんと、頼もしいな」 えへんと胸を張るアンディをひと撫でしてやり、ゆっくり休んでくれと声をかけてボールに戻す。 「あなた、シオンだったわね」 「あ、はい!」 「ふふ、惚れ惚れするようなバトルだったわ。なんだか、感動しちゃった」 「こっちこそ、カミツレさんとバトル出来てよかったです」 急に名前を呼ばれて慌てて顔を上げたオレに、カミツレさんはそう言ってくれた。 ジムリーダーにそう言ってもらえるのって、なんだかちょっと照れくさいけどやっぱり嬉しい。 「さあ、これを受け取って」 そう言ってカミツレさんからボルトチェンジと、彼女の好きだという技「ボルトチェンジ」の技マシンを受け取る。 これもなんだか恒例になってるよな…。 オレは受け取ったそれらを鞄に仕舞い、観客の視線や歓声を受けつつジムを後にする。 つもりが、またもや急に声を掛けられて歩んでいた足を止めた。 「ねえシオン、ぜひ私たちと」 「はあ…」 オレを追ってきたらしいカミツレさんはそう言い、隣へと立つ。 「それにしても、トレーナーとしての輝き…!それを備えているあなたなら全てのジムバッジを集めポケモンリーグへと行けるはず。その時あなたのポケモンはさらに眩しく輝くはずよ」 共にステージを入口へと向かいながら、カミツレさんはそう言ってくれた。 本当に、そうなのだろうか。 そうだったらいいな。 ポケモンリーグへ行けることは疑っていない。 だって、オレとオレの大切な仲間とでバッジを集めているんだから。 そこで、カミツレさんが言うように少しでも輝けたら、きっと素敵なんだろうな。 そして着いたジムの出入り口で、オレはカミツレさんにお別れを言って外へ出た。 ***** 「さてと、次はどっち行けばいいんだろう」 ジムを出た俺たちはタウンマップを開いて次の行先を相談する。 『次はホドモエではないでしょうか』 「ホドモエ?」 『ここです、マスター』 リイヤが示したのはライモンの西側だ。 橋を渡り進んだそこにはホドモエシティと書かれている。 「次はここか…よし、行こう」 『はい』 タウンマップをたたみ鞄に片付け、オレ達は西ゲートを目指して歩いていく。 「待てよ。お前ら、ここで何してた?」 しばらく進みリトルコートまで来たとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。 自分の事かと思い咄嗟に声のした方を向くと、そこにはやはり見覚えのある後姿。 「ヒュウ兄?」 『何をしているのでしょうか』 そして気付いた。 ヒュウ兄の奥、彼と丁度対面するように黒尽くめの集団が居る。 あれは、間違いなくプラズマ団だ。 「別に?俺たちはただここに居ただけだ」 「逆に質問するが、俺たちがお前に何かしたか?」 「……何もしていない。だがな、人のポケモンを奪うお前らは絶対に許さない」 そこで一度言葉を切ったヒュウ兄はすうっと息を吸い込むと、静かな、しかし怒りのこもった声で言葉を放つ。 「言っておく。オレは今から怒るぜ!!」 「やれやれ…近頃のトレーナーは物騒だ」 「あれか?ポケモンの強さを自分の強さと勘違いでもしてるのか?」 「まあ、お前なんかどうでもいいけど、邪魔されたくないんでな!」 そう言うなりプラズマ団はヒュウ兄を取り囲んだ。 慌てて俺はヒュウ兄へと加勢する。 「ヒュウ兄!」 「シオン!?悪いが、頼りにさせてもらう!」 「うん、手伝うよ!」 オレはヒュウ兄の隣に立ち、モンスターボールを構えた。 ***** 「くっそ、マジかよ!」 「まいったね。まさかお子様二人にやられるとは」 オレとヒュウ兄に負けたプラズマ団の下っ端は、悔しそうに言うものもあればまだオレ達を小馬鹿にしたような奴もいる。 そんな事など些細な事のように下っ端たちを睨み付けていたヒュウ兄に、下っ端の一人が肩をすくめてしかたない、と呟いた。 「その強さに免じて教えてやるよ。我々プラズマ団はある物を探している」 「ある物…?」 「それさえあればアイツは真の力を発揮できるんだ…」 「じゃあな!」 「あ、待て!」 言うなり下っ端たちは例の如く見事な逃げ足っぷりを発揮して姿をくらましてしまった。 相変わらず逃げ足だけはいい。 それにしても、ある物って、アイツって何なんだろう…。 「……5年前、さ」 「ん?」 「オレの妹さ、プレゼントされたチョロネコをプラズマ団に奪われたんだ…」 「……」 「オレもただのガキだし、なにもできなくて」 だから、強く。もっと強くなりたい! そう言って俯いたヒュウ兄の顔は本当に悔しげで。 ヒュウ兄が強くなりたいと望む裏にはそんな事があったのだと、初めて知った。 「けど、さすがだな!お前にはセンスがある!さてと…!」 パッと顔を上げたヒュウ兄はいつもの頼れる兄のような顔に戻っていて。 「お前のポケモン、回復してやるよ」 「ありがと」 「いいか、お前は図鑑を埋めつつもっと強くなってオレをサポートしてくれよ!」 「うん」 「これからも頼むぜ!」 「任せて」 あんなヒュウ兄を見たら、断るなんてできないよね。 正直プラズマ団を前にした時のヒュウ兄は少しだけ怖いけど、でもすべては5年前の事が原因だったんだ。 だからオレは、ヒュウ兄を手伝いたいと思った。 「……いこっか、リイヤ」 『はい』 しばらく立ち尽くしてからようやく、オレはリイヤに声をかけて西ゲートを潜り抜ける。PR