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刻の本

古びた本は 今も昔も刻(とき)を刻む。

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Dramatic Record ~Part 57~

「ちちうえ!」
「--おまえはその子を連れて逃げなさい」
「ですが…っ!」
「いいから行くんだ!!」
「っ…わかり、ました」
「いやぁ!ははうえ、ちちうえが!ちちうえ!!」

そこかしこで火の手が上がっているのか焦げ臭いにおいがする。
そんな中、1人の男性が迫り来るものと必死に食い止める姿がある。
その男性の背後では泣き喚く幼子を抱え、辛そうな表情をする女性。
幼子の言葉から、この男女が夫婦であり幼子の両親であることがわかる。

「はやく、行きなさい!」
「はい…っ」

急かす男性の声に頷いた女性は、幼子を抱えたまま奥座敷のある方へと駆けていく。
しばらく駆けた女性はしかし、はっとしたように立ち止まる。
腕の中には泣き続ける幼子の姿。
この屋敷は彼女たちが住む集落でも一番強固な結果で守られている。
そしてその結界を織り成すのは幼子の両親。
しかし今、その結界に綻びが生じあちこちに亀裂が走っている。

「……っ」

女性は唇を噛み締める。
強固な結界、2人で織り成すそれが壊れかけているということはつまり---…そういうことだ。
そしてそれと同時に感じるのはこの屋敷を囲み迫る、集落を襲ったものたちの気配。
もう、どこにも逃げ場は無い。
そう悟った彼女は腕の中の存在を強く抱きしめ、再び走り出した。
向かったのはこの屋敷の最奥。
最奥にある一室へと辿り着いた女性は幼子をそっと床へと降ろした。

「---、これを」
「こ、れ…」

女性が手渡したのは部屋に飾ってあった一振りの刀。
それを幼子へと私、そして---…。

「それは一族の先祖から守り伝えてきた大切な家宝。次にそれを受け継ぎ守るのは貴女の役目」
「っいや!いやです、ははうえ!!」
「……もう逃げられないのよ。だからせめて貴女だけでも」

そう言って女性は幼子の額に口付ける。
その瞬間、ドクンと胎動にも似た振動が体内を駆け巡った。
それと同時に幼子の瞼がゆるりと下がる。

「---、どうか貴女だけでも生き残って…」

幼子の意識が完全に途切れる前に見たものは、母の泣きそうな笑顔だった---…。


◆◇◆◇◆


「---…!!!」

ガバリと、彼女は布団を跳ね上げて起きる。
完全に息の上がった彼女の頬を涙が一筋伝った。
乱れた前髪をクシャリと掻きあげて大きく息を吐く。
夢で見たものを、あの映像を自分は知っている。
だって、あれは本当にあった出来事で、あの人たちは、あの幼子は…。

「リューィ」
「デューイ」

心配してくれているのか、白と黒の2匹の幼竜が自分へとすり寄ってくる。
しかしそれに反応してやれるほどの余裕はなくて。
あの、幼子は…。

「っ…」

また、涙が頬を伝う。

---あの幼子は、自分自身なのだから。
お題No.10



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Dramatic Record ~Part 56~

「あーもう!なんで私たちがこんなことしなくちゃいけないのよー!!」
「まぁまぁ、落ち着いて」

レイナとシュウがリヴァイアサン退治に向かった頃の砂浜では生徒たちの叫びと宥める声が響いていた。
警備役と海の家役とが決まったようで、それぞれ警備役は腕章を、海の家役は店のロゴが入ったエプロンを付けていた。
服は制服だとあんまりだということで水着に着替えている。
余談だが、全員分の水着が用意されていたことには驚かされた。

「とりあえずだ、それぞれの依頼主が待ってるから行くぞ。海の家にはコウリュウがつくからサボるなよー」
「はーい」

ビャクヤの言葉もあり、生徒たちはそれぞれ与えられた依頼へと向かうのであった。


◆◇◆◇◆


「いらっしゃいませー」
「こっち生ビール2本追加です!」
「お嬢ちゃんかわいいねー。どう、今夜一緒に?」
「あらお客さまったら冗談がお上手ですこと」
「こっち焼きソバできたぞー」
「はーい!」
「店員さん会計お願い!」
「少々お待ちをー!」

最初は空いていた海の家も、昼食時が近づくにつれ客足が増え、今では忙殺されそうなほどに忙しい。
始めは見ているだけだったコウリュウも、あまりの忙しさに調理場担当として借り出されている。
おまけに彼の料理の腕が無駄にいいものだから客足が増えているのも忙しさの原因になっていたりするのだが、残念ながらこの忙しさの中でそのことに気付くものは皆無であった。


◆◇◆◇◆


時は遡ること数時間前。
場面は砂浜で警備をしている者たちへと移り変わる。
二人一組、5ペアで巡回していた彼らは居る場所は違えど見ているものは同じであった。
そう、彼らは突然伝わってきた凄絶な魔力を感じ海へと向け-…固まった。
なぜって、それは勿論海面に出来上がるいくつもの氷塊を見てしまったからだ。
氷塊ってあんた、いくらなんでも時期が違うというかもっと他にやりようがあるだろう。
そう思いつつも彼らは暴れるリヴァイアサンを見ていることしか出来なかった。
そして氷塊の出来上がる光景を目撃した海水浴客を落ち着かせるのに苦労したのだとか。


◆◇◆◇◆


「あ、いたいた」

そう声を発したのはリヴァイアサン退治を終えたレイナだ。
声をかけられた警備組みの面々は声のした方へと顔を向け、呆け面を晒す。
常日頃あまり露出の多くない彼女だから想像もしていなかったその姿は、水着。
紺色のビキニと下肢にまとうパレオはさり気ない和柄で、普段はいくつも付けている魔器も海という場所のためか数が少ない。
さらに彼女の後ろに佇んでいたシュウに視線をやると、お揃いなのか似たデザインの男性用水着を着ていた。

「暑い中ご苦労様。私たちは終わったから一足先に楽しませてもらうわ。そっちは引き続き頑張ってね」

そういい残すと後ろ手に手をヒラヒラさせ、去っていった。
もちろんながらその後をシュウが追いかけて。

「まさか、レイナが水着を着るとはねー」
「ちょっと、意外だわ」
「眼福眼福」
「お黙り」



 


Dramatic Record ~Part 55~

ばさりと大空を羽ばたくのは巨大な影。
白い巨躯と同色の翼を持つその姿はドラゴン。
あまりの巨体に地上からでは視認できないだろうがその背には一組の男女が跨っていた。

「ちー、あれの上に」

そう指示を出すのは一番前に跨る少女、レイナだ。
彼女の言葉に“ちー”と呼ばれた翼竜はひと鳴きすると、指示されたとおりにアレ---リヴァイアサンの真上に飛ぶ。

「しっかし、まさかちび助がこんなに大きくなるとはなぁ」

乾いた笑いと共にそう零したのはレイナの後ろで翼竜にまたがり彼女の腰へと腕を回している青年、シュウだ。
そう、この翼竜はレイナのガーディアンである白九龍ことちび助のちーちゃんが変化した姿。
まだ何かありそうだとは思っていたが、まさかこれ程とは、と驚きを隠せないのが現状だ。

「ちーは精霊の中でも特別だからね。それにこっちが本来の姿よ。普段のあれは大きすぎると一緒に居られないからって変化してるだけ」
「え、そうなのか?それじゃくーも…」
「くーはまだかな。後数年もすればこれくらいになるとは思うけど」
「へ、へぇ…」

こんなのでかいのが2匹…と、そこまで考えて思考を放棄する。
これ以上考えていても何かあるわけではないし、ましてや今は依頼遂行中だ。
もうすぐ標的につくので思考を切り替えねば。
シュウは頭を一つ降ると思考を依頼へと切り替えた。

「シュウ、頭上に着いたわ。私が先に降りて足場を作るから、それを確認してから降りてきて」
「わかった」

彼が頷くのを視界の隅で認めるや否や、レイナは翼竜の背から下の海へと身を躍らせる。
それから数瞬後、空を切るような咆哮が聞こえたと同時に凄絶なる魔力の本流が伝わってきた。
レイナが魔力の一部を解放し魔法を使ったのだ。
シュウが翼竜の背から下を覗くと、底にはいくつもの氷塊が浮いているのが確認できた。

「うわぁ…」

真夏の海に流氷もかくやな氷の塊り。
ちょっとどころか、かなりシュールな光景だ。

「と、こんなことしてる場合じゃないな」

自分たちが今しなければならないことを思い出したシュウは、先程のレイナと同様に眼下の海(正確には氷塊だが)を目指して飛び降りた。


◆◇◆◇◆


「ったく、ただの縄張り争いで暴れていたなんてはた迷惑な」
「レイナさーん、縄張り争いは彼らにとって死活問題だからなー?」

あの後2人が氷塊を足場にリヴァアサンを退治していると、海の底からもう一体の魔物が現れたのだ。
それを見て2人は瞬時に悟った。彼らは縄張り争いをしていたのだと。
その後のレイナの動きは素早く、そして恐ろしかった。
2匹が動けぬよう縛魔の魔法をかけると同時に氷塊を足場として文字通り叩きのめしたのだ。それはもう欠片の容赦も出ずに。
おかげで2匹の魔物は今も海の中で気絶よろしく浮いている。

「だからってこの時期に縄張り争いは迷惑だっての。やるなら冬よ、冬」
「だなぁ」

拳を握って力強く言うレイナに、シュウは苦笑しつつ頷く。

「まぁでも…」
「ん?」
「海に来れたのはよかったかなって」
「………うん、そうだな」

ぼそりと呟いた霊菜はフィと顔を横に向けてしまい。
けれども見える耳は真っ赤になっていて。
それを見たシュウの顔もまた、ほんのりと赤く色づいていた。

「時間あるし、遊んでいくか」
「えぇ」




Dramatic Record ~Part 54~

青い空、白い砂浜。燦々と照りつける太陽の光とキラキラと輝く澄んだ水面。
浜は多くの人で溢れかえり、楽しげな声が響く。

「というわけで、本日の依頼だ」
「なにが『というわけで』ですか!」
「先生、説明はちゃんとした方がいいと思います!!」

突然海へと連れて来られたかと思いきや、何の脈絡もなくこれまた突然に言い渡された言葉に、エリアル学園の学生総勢14名は一斉に連れてきた張本人たちへとブーイングをかました(内2名はひたすら沈黙していたが)。

「あー…今回の依頼は砂浜の警備とちょっと暴れてる魔物の退治だ」

生徒に同行していた(というより連れて来た張本人なのだが)教師2人のうちの片割れ、銀の髪を適当に結い上げ日差しが眩しいのかサングラスをかけている青年、ビャクヤが依頼についての説明を始める。

「先ず前者だが、こっちはどうも今年のバイトが間に合わなかったらしくてな。急遽学園に依頼として持ち込まれたんだ。ちなみに人数の要るものだから暇そうな奴を出来る限り集めてほしいとのことだな」

それで10人、この依頼に当たってもらう。
と、手元の依頼書を見ながら言う。
あまりの依頼内容にくず折れる者や文句を言うものが出たが、それは致し方ないだろう。

「それから、2名は海の家でお手伝いな」
「そんな事まで!?」

さらりと言われた追加情報に、依頼の本来の目的って何だっけ…と本気で考えてしまったとかなんとか。
とにもかくにも一気に彼らのやる気が削がれてしまったらしい。

「あ、先生!」
「ん?」
「あとの依頼って…」
「ああ、それな」

彼らの中で逸早く復活したらしい生徒が手を挙げながら問いかける。
そんな生徒の質問に答えたのはここに来て一言喋った後から沈黙を通していた先生だった。
日焼けしないためなのか薄手のパーカーを羽織り(その中は素肌のようだ。おまけにしっかりと下は海水パンツを履いている)、帽子とサングラスをかけている青年、コウリュウは、やはり暑いのだろう頬を流れる汗を拭いつつ、ビャクヤから奪うと書いて受け取ると読んだ依頼書を片手に説明の続きをする。

「そうもこの沖合いでリヴァイアサンが連日暴れているらしくてな。こっちはレイナとシュウ、お前ら2人が指名されてるからちょっと行って退治て来い」
「………」
「やっぱりか」

着いた時からひたすら沈黙を保っていた2人に全員の視線が集まる。
レイナは未だに沈黙を、シュウは大きな溜息と共に心底嫌そうな声でぼやく。
実は彼らがいる砂浜から見える沖合いに現在進行形で件の魔物が暴れている姿が見えている。
レイナとシュウはその光景を目にした瞬間ソレから目を逸らしひたすら見ないようにしていたというのに。
嫌な予感はこの2人の場合ほぼ100%の確立で当たってしまうようで。
ちょっとそこまでお使いに行って来いと言うかのごとく軽いノリで言われ、肩を落としたのも仕方のないことだった。

「それじゃお前ら依頼の内容はわかったな?各自準備をして持ち場についてくれ」
『はーい』

最後にビャクヤが締め、彼らは一時解散となった。




Dramatic Record ~Part 53~

燦々と太陽の光が降り注ぐエリアル学園の敷地内、普段は礼儀作法としてダンスの練習をするために使われるホールに彼らは集まっていた。

「みんな、各自準備は出来た?」
「ええ、ばっちりよ」
「会場のセッティングOK、料理ももうじき運ばれてくる」
「もちろんプレゼントも」
「それじゃあとは主役を待つだけね」

広いホール内は綺麗に飾り付けられ、彼らがどれだけの時間をセッティングに費やしたのかが窺える。
中央では丸テーブルが多く配され、そこに集まる彼らはみな正装している。
一体何が行われるのか、それは彼らが言う『主役』を待つほかないだろう。


◆◇◆◇◆


「いた!」
「ん?」

木の葉によって適度に日差しが遮られた中庭、そこに目当ての人物はいた。
普段生徒たちの憩いの場として使用されているここには、今現在目的の人物と、その人物を呼びに来た者しか居ない。

「やっぱりここだろうと思った」
「何か用?」

木陰で本を読んでいた少女---レイナは、本に栞を挟み閉じると彼の人物へと顔を向ける。
そこには軽く息を切らせた彼女の恋人であるシュウの姿。
その姿を見止めて、なにかあったのだろうかとレイナの顔は自然と険しくなる。

「レイナ、今すぐ来てくれ!」
「ちょ、説明しなさいよ」

言うや否やすぐさま身を翻し駆けて行く彼に、自体の把握が出来ていないレイナは文句を言いつつも素早く立ち上がると彼を追いかけ始めた。


◆◇◆◇◆


「………ダンスホール?」
「…」

来てくれ、といって彼が案内した先はなんとダンスホール。
てっきり学園長の元だと思っていたレイナの声音が1オクターブほど下がったのは致し方ないだろう。
不穏な気配を漂わせているレイナに、案内してきたシュウはと言うといささか顔を青くしていた。

「とりあえず、中に入ってくれ」
「は?」

視線を合わせないように斜め下に向けたまま、シュウは言い募る。
それに対しレイナはわけが判らないと怪訝そうにして言い募った彼を見やる。

「入ったら、わかるから」
「……」

理由を話そうとしないシュウに胡乱な眼差しを向けるレイナ。
視線が痛い痛い!とシュウが思っていたのは致し方ないだろう。

「…ったく」

ひとつ呟き、このままこうしていても埒が明かないの判断したのか、レイナはゆっくりと目前の扉へと手をかける。
そのまま腕に力を込めて扉を開くと…。

『Happy Birthday!!!』

パパパン!!

大勢の声と沢山の破裂音、そして舞い散る紙ふぶき。
それらに迎えられたレイナは何が起こったのか脳内の処理が追いつかないのか目を見開いて硬直している。

「レイナ、誕生日おめでとう」

最後にそう声をかけてきたのはここに案内したシュウだ。
その声にようやく思考が回り始めたのかゆっくりと彼を振り返り、小さな声を発する。

「なに、これ」
「だから誕生日」

どうやら思考は回り始めたようだがまだ処理が追いついていないらしい。

なんだこれは。
誕生日?
誰の?
私?
…………。

「ありが、とう?」
「おいこら何で疑問系なんだ」

疑問形の何が悪い、まだ頭の中が整理できてないんだから仕方ないだろう。
そんなことを考えられるくらいには整理が追いついてきたらしい。

「レイナ、今日は8月4日。貴女の誕生日ですわよ」
「そうそう、そのために昨日から準備始めてたんだから」
「もしやとは思ってたがわすれてたか…」

まぁ、誕生日を忘れるのはいつものことだけど。
とシュウは続けておもむろにレイナの手を取る。

「レイナ、こっち。父様と母様がケーキを贈ってくれたんだ」
「うわ…」

導かれた先にあったのは大きなバースディケーキ。
今ここに集まっている人数に余裕で行き渡るのではと思えるほどの大きさだった。

「旦那様も奥様も、別にいいのに」
「はは、母様たちが贈りたいって思ったんだから素直に受け取りなよ」

レイナの言葉に苦笑を返して。
小さく口の中で言葉を唱えたと思ったらケーキにさしてあった蝋燭に火が灯る。
これで準備は完全に終了だ。

「さ、火を消して」
「…子供じゃないんだけど」
「レイナ、早くなさいよ」
「そうだぞー」
「………」

みんな口々に火を消すよう言う。
それに大きな溜息を吐いたレイナは先のどのシュウと同じように口の中で何かを唱える。
それが終わった瞬間、蝋燭に灯る火が揺れ掻き消えた。

「うわ、反則」
「ズルイですわ」
「レイナらしいって言えばレイナらしいな」

その様に各々反応を返す。

「さって。俺たちからのプレゼント、ちゃんと受け取れよ」
「はいはい」

こうして彼女のバースディパーティーは幕を開けるのだった。




Dramatic Record ~Part 52~

「レイナは俺の!誰にも渡す気はねぇ!!」

そう声高らかに宣言した彼に、一同は再び固まらざるを得なかった。


◆◇◆◇◆


彼の上の中にいる彼女は頭一つ分高い彼の顔を見上げたまま惚けている。
彼女としてもシュウの言動は予想外だったらしい。
そんなレイナの様子など気にせず、シュウは尚も言い募る。

「レイナは俺のものであって他の誰かのものではないしましてや愛を囁くなんて論外!口説いていいのも惚れていいのも隙や愛してるって言うのも抱きしめるのもキスしていいのも全てまるっとなにもかも余す事無く俺の権利であって誰かにやった覚えなんてないんだから近づくな!」

彼は句読点をまったく挟まず一息のもとに言ってのけた。
熱烈なその言葉に、聞かされたこちらが申し訳なくなりそうだ。

というか普段のヘタレはどこへ行った!?
ヘタレを返上し愛する少女を抱きしめ言った彼に呆れればいいのか驚けばいいのか、様々な感情が混ざり合い複雑となったそれが一同の心の中で渦巻いていた。
腕の中のレイナはあまりのことに顔を羞恥で真っ赤に染め上げている。
これはまた実に珍しい光景(何せあの女帝がデレているのだ!)に釘付けとなっている一同はもうどうにでもなれと思い始めていた。
レイナに告白まがいの事をした男性もまさかのことに呆気に取られている。

そんな一同を余所にシュウは尚も言い続けていた。
一体いつ終わるのだと思いはするが、余計なことを言って馬に蹴られるのは誰だってごめんこうむりたい。

今も間近でシュウの科白を聞かされ真っ赤になっているレイナには悪いが、一同はそっと手を合わせると1人、また1人と食堂へと姿を消した。


「ところでさ…」
「どうしたんだ?」
「あの2人ってようやく付き合い始めたんだ?」
「あー…らしいよ」
「へぇ…」

そんな会話が生徒たちによって成されていたとかなかったとか。

お題No.21




Dramatic Record ~Part 51~

「なーにやってんだ?」

固まる一同の後ろから、やけに明るい声が響いた。
思わず一同はギギギ…と油の切れた機械の音が聞こえてきそうなほど酷くゆっくりと声のした方を向き…瞬間、とてつもない後悔に襲われた。

(こ、こええええええ!!!)

一同は心の中で大絶叫。
彼らの視線の先には、にっこりとわらっているはずなのに背後に般若を従え目が笑っていないシュウの姿があった。

「あ、シュウ」

空気を読んでいないのかと思うほど暢気な声を発したのは先ず間違いなくシュウがああなった原因の一端を(半強制的に)担っているレイナだ。
レイナは手を握られたまま顔をシュウへと向け、ことりと首を傾げる。

「レイナ、何をしてるんだ?」
「何って、学園の案内」
「いや、そうじゃなくて。それは何だって訊いてるんだよ」

それ、と言って指差したのは未だに握られている彼女の手だ。

「ああ…」

視線を戻したレイナは黙り込む。

「なんでそこ黙るんだよ!?」と使徒たちの心が一つになったのは言うまでもない。

「あの」
「ん?」
「いつまで握っているつもりですか?」
「んー…」

言外に離してくれと言っているのだが、男性は離してくれる気が無いようだ。
この時点でシュウの片眉がピクリとはね上がり、青筋が一本浮かび上がった。

「そもそもなんで握ってるんですか」
「君が逃げてしまわないようにするためかな」

語尾にハートでもつきそうな声音だ。
この瞬間、普段は長いが事レイナが関係すると短くなると定評があるらしい今現在いくつ者青筋を浮かべ黒い笑みと共に般若を従えるシュウ青年の忍耐袋の緒がブツリと大きな音を立ててちぎれた。(そう、千切れたのだ!)
彼はややうつむき加減でつかつかと靴の踵を高らかに鳴らし2人へと歩み寄ると、ベリッと2人を引き剥がした。
そしてそのままレイナを自身の腕の中に閉じ込めて、

「レイナは俺の!誰にも渡す気はねぇ!!」

そう高らかに宣言した。
お題No.19 嫉妬




Dramatic Record ~Part 50~

「貴女は谷間に咲く白百合のようにとても美しい。ぜひとも私の傍にずっと居てほしいほど…っ!」

その言葉と共に、言われた本人は勿論のこと、その周囲の人もまたピシリと音を立てて固まった。


◆◇◆◇◆


今日、どこかの国の偉い人が視察に来るのだと聞かされたのは朝早い時間だったと記憶している。
そのときに生徒会長として学園を案内してやってくれとも言われた。
今日は抜けても問題のない授業ばかりだったなと、頭の中に入っている時間割を思い出し是と応えた。
まさかこの時、こんなことになるとは思いもしなかったが。

さて、是と応えたからには当人に会わなければならない。
しかしまだその人は来ていないようで、仕方なしに正門へと出迎えのために赴いた。
そして待つことしばし、正門の前に一台の馬車が止められた。
その中から出てきたのは1人の年若い男性。
年齢は20台半ばといったところか。

「ようこそ、エリアル学園へ」

学園長が挨拶と共にお辞儀する。
もちろんレイナもそれに習った。

「ああ、急な視察ですみません」
「いえいえ、構いませんよ」

学園長と男が言葉を交わす傍らで、レイナは失礼にならない程度に男性を観察する。
物腰も柔らか、嫌味な所も特にないし、好印象だろうか。
などと考えていたら、不意に言葉をかけられた。

「ところで、貴女は?」
「へ?」

思考の海に沈んでいたから咄嗟に反応できなかった。
だからなんとも間抜けな返事をしてしまったのだが、男性は特に気分を害した様子もなく再び問いかけてくる。

「貴女の名前を教えていただけませんか?」
「ああ、失礼しました。私はレイナと申します」

名前を名乗って礼儀正しく腰を折る。
伊達に礼儀の科目でAクラスに属しているわけではない。

「それでは後の案内は彼女に任せていますので」

と、学園長は言い残して去っていった。
ちょっと無責任じゃないのかと思ったが、口には出さないことにする。


◆◇◆◇◆


「こちらが学生塔、生徒たちが寝食を共にする寮がある建物です」

あの後教師塔、勉学塔、実習場、温室の順で案内し、ここ学生塔へとやってきた。
学園の敷地は実に広く、この学生塔の案内が終われば丁度良い時間になるだろう。

「この学生塔は一階左手側が食堂に、右手側が大浴場になっています」
「一回は公共施設になっているのか」
「はい。それと二階より上は階段を上って左手が女子寮、右手が男子寮となっています。部屋は基本的に5人部屋となっており、上の階に上がるごとに上級生たちの部屋になっています。さすがに女子寮を案内することは出来ませんが、男子寮の方を覗いて見ますか?」
「そうだね、食堂と男子寮を見せてもらおうか」
「わかりました、こちらへどうぞ」

そう言うと、レイナは男性を促し中へと歩みを進める。
先ずは食堂を案内し、メニューの説明をしていく。
その後階段を登り男子寮の案内という順番だ。
余談だが、男子寮のほうへ行くと丁度出くわした男子生徒が悲鳴を上げて逃げ出した。

「みんなとても賑やかだね」
「はい。元気が取り得の者が多いですから」

一通り案内が終わった2人は、学生塔のエントランスまで戻ってきていた。
時刻も既に夕食時に近づいており、階段を降り食堂へ向かう生徒の姿が多く見られる。

「これで視察が終わりと思うと…とても残念だね」
「…?」

なぜ残念なのか別けがわからず首を傾げていた彼女の手を、不意に男性が両手で握り締めたかと思うと、そのまま自身の胸元まで誘い、そしてのたまった。

「貴女は谷間に咲く白百合のようにとても美しい。ぜひとも私の傍にずっと居てほしいほど…っ!」

そうして事は冒頭へと戻ることとなる。
お題No.36 白百合




Dramatic Record ~Part 49~

「あれ?」

ふと目に付いたのは、彼女の首に掛かるそれ。
少々小振りのそれは陽の光に照らされ澄んだ薄青色の輝きを放つ。

「レイナ、そんなの持ってたっけ?」
「ん…あぁ、これ?」

気になって問いかけてみたら、暑さのために寛げていた制服の前から覗くそれに手をかけ聞き返してきた。

「そう、それ。はじめて見た気がするんだけど」
「これはね…」

胸元に存在する水晶にも見えるそれを片手で弄る彼女の瞳は、ここではないどこか別の場所を見ているような、懐かしむような色を宿している。
不意に彼---シュウは不安に駆られた。
今儚く見える彼女がどこかに行ってしまいそうで。
無意識にそっと彼女の腕を取ると、そのまま身体を引き寄せて自身の腕の中に閉じ込める。
突然の行動に、腕の中に閉じ込められた彼女は目を瞬かせ彼を見上げた。

「シュウ?」
「なんでも、ない…」

いぶかしむ彼女にそう応えて笑みを浮かべる。
本当は急に不安になったのだと、君が消えてしまいそうに思えたなどとは決して言わない。

「で、それは何?」

これ以上は気かな方がいいのだろうけど、どうしても気になったから。

「これは氷晶石っていうの」
「ひしょうせき?」

初めて聞く名称だ。
思わずひらがなで聞き返してしまった。

「正確には鉱石じゃなくて魔力の結晶でね、お守りなの」
「結晶…」

彼女の言葉には驚いた。
だって、普通は魔力が結晶化するなんてありえないから。

「ふふ、これは特別でね。ちょっと特殊な製法で作られたのよ」
「それは、蒼が?」
「いいえ、私の母よ」
「!」

『母』と言った瞬間の彼女に瞳には、深い悲しみ。
マズった、と少し前の自分を呪いたくなった。
だって彼女は、まだ完全に悲しみから抜け出せていない。
普段は平気そうな、何も感じさせないのに、時々酷く悲しそうにしているのを俺は知っていたというのに。
知らず知らずのうちに腕の力が強まっていたようで、彼女は小さく呻いて身をよじった。

「ぁ…ごめん」

小さく漏れた謝罪の言葉は、はたしてどちらに対してのものだったのか。
あるいはどちらでもないのか、その判断はつかない。

「それは良いけど、どうしたの?痛そうな顔してる」

自分だってまだ痛いだろうに、そんなこと感じさせない風で。
やっぱり彼女は凄いなと思う。

「なんでもない。本当に、なんでもないから」
「……そう」

なんでもないと言ったけど、きっと彼女にはお見通しだろう。
彼女はとても聡いから。
俺は彼女を抱いたまま、その肩へと顔を埋めた。
お題No.6 水晶