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刻の本

古びた本は 今も昔も刻(とき)を刻む。

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Dramatic Record ~Part 48~

「あー、もう最悪!」
「濡れましたわね…」

そう言って部屋の前でパタパタと服についた水を払っているのは(といっても見事に濡れているためあまり意味はないが)2人の少女、レイナとエミリアだ。
気休めにしかならないその動作を終えた2人は目前にある扉を開く。

「あ…」
「え」
「げ」
「っ!」

4者4様の声が上がった。
室内に居た青年2人(シュウとファゼだ)は、レイナたち同様濡れたようで、丁度着替えようとしていたらしい。
室内に設置されているソファーに着替えの服を掛け、上着を脱ごうと、もしくは脱いだところだった。

「あー…お帰り?」
「……」

しばし呆けていた4人だったが真っ先に正気に戻ったらしいシュウが取り合えずとばかりに無難な挨拶を口にする。
しかし声をかけられた少女2人は無言。
その様に顔を見合わせたシュウとファゼは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
その顔は「まずいかなぁ」と言っているようで。
「仕方ない」と小さく呟いたシュウは立ち尽くしている2人の許へと歩み寄る。
そしておもむろに2人(主にレイナの方ではあったが)覗き込んだ。

雨に濡れた髪はしっとりとしており、最近延びてきた襟足部分の髪が水分によって首筋に張り付いている。
スラリと高い身長(彼の身長は180cmはある)、無駄のない筋肉に覆われたしなやかな身体。
軽く身を屈め小首を傾げてくるさまは非常に…いただけない。
何がって、そりゃもう色々。

それを見てしまったエミリアはボフンと音を上げて(これは幻聴だ)顔を真っ赤に染めている。
レイナはというと、さすが幼馴染と言うべきか、何の反応もない。

「な、あ、あああの、シュウ様!」
「ん?」
「~~っ!」

真っ赤になったエミリアはとうとう耐え切れなくなったのか声にならぬ叫びを上げて蹲ってしまった。
シュウは彼女がなぜ真っ赤になったのか理解していないのか、口元に笑みを乗せ首を傾げたまま。
2人の様に、隣に居たレイナは額を押さえ溜息を吐いた。

「ところで」
「ん?」
「なんで生徒会室で着替えてるわけ?」
「……えへ☆」

じっとねめつけるような視線に笑ってごまかそうと試みる。
レイナはプツッと何かが切れた気がした。

「っんの、寮で着替えてきやがれ!」

ウガーっと吼えて廊下を指差す。

「だってまだここで仕事残ってるし」
「ここと向こうじゃ距離あるし」

「なー?」と声を揃えてシュウとファゼは言う。

「つべこべ言うな!」
「え、ちょ、待てってうわぁ!?」
「それ反則それ反則それ反則ううううう!!」

静止と反論の声空しく、青年2人は影に呑まれて姿を消した。
お題No.2 雨


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Dramatic Record ~Part 47~

「ねぇ、これ…」
「ああ…」

「既に手合わせの域じゃない(ねぇ)!!!」

観戦者の心が一つになった瞬間だった。


◆◇◆◇◆


4人が手合わせを開始してからおよそ1時間ほどだろうか。
その間中ずっと激しい攻防が続いている。
今はレイナVSビャクヤ、シュウVSコウリュウで戦場(※実習場です)を駆けているのだが、30分ほどその状態が続いていた。
シュウもさすがにコウリュウが相手だと一所に留まるわけにもいかないようで、鋼糸を巧みに扱いコウリュウと組み打ちながらも時に攻撃をいなし、時に攻撃を仕掛けている。
レイナはビャクヤの攻撃から上手く逃れられず、多少の苦戦をしているように見えた。

「紅桜、能力開放」

ビャクヤから距離を一旦取ったレイナは、愛刀を自身の前に翳し指を紅刃へと滑らせる。
すると辺りにリィィンと高く澄んだ音が響いた。

「っ、させるか!」

ビャクヤはレイナに次の動作をさせまいと魔弾を連続して撃ち込んでいく。
レイナの居た場所は土煙が登り、彼女の姿を隠してしまった。

「あーあ、ビャクヤの奴完全に忘れてるな」

そう言ったのは他の人と一緒になって4人の手合わせを観戦していたリュウオウだ。
彼の近くには他の有見所も居る。

「意外にあの2人熱くなり易いからねー」
「うんうん」

リュウオウに続いたのはコウヤとエンだ。
エンはしきりに首肯している。

「レイナ様は、だいじょ、ぶでしょうか…」
「だーいじょうぶだって!」

その横で心配そうにしつつも肩で息をしているのは、この件を聞いて慌てて来たのだろうサヨとルリ。
ルリの方は比較的平気そうだったが。
この実習場は広い分意外に校舎から距離があるのだ。

「あの、止めなくてもよろしいので?」

と、そんな彼らに声をかけたのはエミリアだった。
4人の近くに居たら危険だと判断し、観戦しているものたちの所まで来たのだろう、その判断は正しいといえる。

「むだ」
「え?」

エンの横に居たゴウが口を開く。
その言葉の意味がよくわからなかったのか、エミリアは聞き返す。

「あー…。あの4人は俺らじゃ止められないって事」
「ああ…」

説明をするのは当然のごとくエンだ。
それを聞いて理解できたのか、みな一様にして遠い目になった。

「緋刃」

と、土煙の中から声と友に紅い斬撃がビャクヤを襲う。

「あ、やっぱり」
「効いてないな」
「無傷ねー」

それを見て言葉を発したのは有名所、もとい幼馴染’s。
先程の斬撃による衝撃か、土煙が晴れてきており、その中に佇むレイナの姿が見えた。
彼女は幼馴染たちが言ったように無傷でピンピンしている。
ちなみに、ビャクヤも上手く避けて無傷だ。

「さて、そろそろ終わらせようか」
「……」

にっこり。
怪しく上がったレイナの口端。
やばい、と思ったときには既に遅く、ドガッと音を立てて彼は地面へと押し倒されていた(押し倒されていたレイナはというと、彼に馬乗り手首を踏みつけている)。
この瞬間男子生徒たちがポジション交代を願ったことをここに密かに記しておこう。

「コウサンデス」
「ん」

ビャクヤの降参を聞くと、レイナは彼の上から退き手を差し伸べた。
その手を取り起き上がった彼は思い出したように声を上げる。

「そういえばコウリュウたちは?」
「あっち。もう終わってるよ」

レイナは声と共に指差す。
みんなの目が一斉にそちらへ向かうと、鋼糸に絡め取られたコウリュウの姿。
その傍には満足げに笑うシュウの姿がある。
どうやら土煙の上がっている間に決着がついていたらしい。


◆◇◆◇◆


「予想以上でしたわ」
「だな…」
「「…?」」

彼女たちにとっては普通のことだったため、生徒たちの驚きの意味に気付けないレイナとシュウが居たとか。




Dramatic Record ~Part 46~

「甘い」

言ったのはシュウだ。

彼はビャクヤが魔力を込めると同時に指に挟んでいた鈴を握りこみ、鋼糸を手にからめとると勢いよくそれを引いた。
すると張り巡らされていた糸がその動きによって跳ね上がる。
その上に乗っていたレイナは膝をバネに、さらに跳躍した。
当然のことながらビャクヤの放った魔弾は全て当たることはない。

「コウリュウ!」
「ああ!」

レイナは跳躍した後鋼糸を足場にコウリュウへと攻撃を仕掛けに行く。
スルスルと上手く移動するその姿は遠目には空中を何もなしに動いているように見えるだろう。

「すごい…」

ポツリと漏らしたのは誰だったのか。
4人の戦闘に魅入る者たちが息を飲み込み見逃すまいと必死になる中、誰かが零したその声は、決して大きい声ではなかった。
けれどその声は多くの人の耳に届いていて。
誰もがその声に賛同する。

目の前で行われている戦闘は凄絶にして壮絶。

ヒラリヒラリと鋼糸を使い舞う様にして攻守するレイナと、彼女がそう在れる様にサポートするシュウ。
巧みな連携により攻撃を繰り返すコウリュウとビャクヤ。
どちらも引けを取らない。

「ビャクヤ、シュウを狙え!」
「りょーかい!」

コウリュウの言葉にビャクヤは頷くと、黒銀の照準をシュウへと合わせる。
そのまま再び魔力を装填すると、引き金を引いた。

「レイナ!」

シュウはパートナーの名前を呼ぶと、指を、腕を動かす。
すると鋼糸が蠢き彼の前へと集まる。
シュウは左手の動きを止めるが右手は動き続けたまま。
ビャクヤの放った魔弾が彼の前に集まり張られた糸へ届く寸前、それよりほんの手前で輝く何かが見えた。

「あれは…」

あれは、動き続けている右手に繋がる鋼糸だ。

「掻き消せ、瞬禍」

その言葉と共にビャクヤの魔弾が切り裂かれ消失した。
瞬禍の糸が攻撃を相殺したからだ。

「やっぱ、通じねぇか」
「当然!」

言って、互いに次の動作に移る。

シュウは止めていた左手を動かし絶禍の防御を解く。
ビャクヤも再び魔力を込めようとした時だった。

「ビャクヤ左だ!」

コウリュウの叫ぶ声とヒュッと耳元で唸る音。
咄嗟にビャクヤは黒銀でガードする。

攻撃してきたのはコウリュウを相手にしていたレイナだ。

漆黒の鞘で打ち付けられた黒銀を通してその衝撃が伝わってくる。
ついで繰り出された左からの斬撃は何とか間に滑り込んだコウリュウが防いだ。

「大丈夫か?」
「おう」

ギィン!と甲高い音を立てて刀を弾き返し、コウリュウとビャクヤは一度距離をとる。
レイナも距離を開ける為か軽やかに後方へ跳び退っていた。

「さすが、レイナだな…っ」
「それはどうも」

シュウとビャクヤの攻防(僅かな時間ではあったが)の間に2人は激しく何合もやりあったのだろう。
コウリュウは肩で息を、レイナも軽く息を切らせている。

「ビャクヤ、相手交代」
「わかった」

コウリュウとビャクヤはレイナには聞こえない程度の音量で話す。
その間も2人の視線はレイナとシュウから外されることはなく。
話し合いの済んだ2人は獲物を構え直すと、互いの標的へと駆けた。




Dramatic Record ~Part 45~

「月影は手を出さないようにね」

彼女は始まりの合図と同時に自身の影に潜むモノへと命じる。
それに応じる気配を感じると、再び前へと向き直った。

「覚醒、紅桜」

レイナが右手に鞘を、左手に柄を持つと抜刀しつつ声を発すると、刀は白刃から紅刃へと色を変えた。

「響鳴、瞬禍、絶禍」

シュウが両手の人差し指と中指の間にそれぞれ挟んだ鈴を鳴らし言葉を発すると、鈴から細い糸が伸びる。

「輝け、蒼月」

コウリュウが右手に下げた飾り珠を一つ撫で言うと、珠を通していた紅い組み紐の先に剣が現れた。

「発動、黒銀」

ビャクヤがホルスターから銃を抜いて言い放つと、引き抜かれた銃の周囲に魔法陣が浮かび上がる。

4人の武器がそれぞれの変化を起こすといよいよ戦いが始まる。
始めに動いたのはレイナとコウリュウだ。
コウリュウは上から件を振り下ろし、レイナは刀を振り上げる。

「っく…」
「……っ」

ガキィィィンー…と互いの武器がぶつかる音。
キリキリと力の拮抗する音が僅かに聞こえる。
両手で剣を構えるコウリュウと片手で刀を構えるレイナ。
状況的にも身体的にも優位なのはコウリュウのはずなのに、レイナは彼の攻撃を受け止め、しかもその力は拮抗している。

くつりとコウリュウが笑った。

フッと刀にかかる重みが消えると同時に彼はクルリと身体を捻り攻撃をかわす。
すぐさま身を引こうとしたレイナが見たものは、銃を構えつつも接近してくるビャクヤの姿。

『ガン=カタ』と呼ばれる銃と体術を組み合わせた彼が得意とする戦闘スタイルだ。
この戦闘スタイルのおかげで彼は遠・中・近距離全てに対応できる。
また、『黒銀』から放たれる魔力の弾は強力だ。

「チッ!」

舌打ちを一つしてレイナは後ろに飛びのく。

「こっちを忘れるなよ」

と、レイナの横からコウリュウの声がする。
彼はビャクヤの接近の盾となり身をかわした後、その反動のまま彼女の横に移動していたのだ。
マズイ、とレイナは一瞬にして判断を下す。
前と横、これだけ接近されているとさすがの彼女でも魔法なしに攻撃をかわしきることは難しい。
すると彼女の耳元、彼らが接近するのとは別の聞きなれた音が聞こえてくる。

「レイナ、乗れ!」

シュウの声と共に視界の端に入るのは銀糸。
いつの間にかレイナの周囲に張り巡らされた彼の武器、瞬禍と絶禍から伸びる鋼糸だ。
障害物のない実習場で、どうやってこの空間に糸を張り巡らせているのか。
訊くところによると使用者本人もその原理をわかっていないらしい。

「ごめん、ありがと」
「しまっ!」

コウリュウの攻撃が届く寸前、レイナは足の裏へ魔力を集中させるとそのまま跳躍し、自身の周囲に張り巡らされた鋼糸の1本へと飛び乗った(足の裏に魔力を込めているので切断などというヘマはしない)。
跳躍した彼女に、コウリュウの攻撃は空を裂くだけに終わった。

「俺が行く」

その後をすかさずビャクヤが動き、黒銀の照準をレイナへと合わせる。
すると黒銀の周囲に浮かぶ魔法陣がキュルキュルと回転し、彼の手の平から弾倉、そして銃身へと魔力が集まるのが判った。
数秒で完了したその動作に誰もが撃たれると確信する。

「装弾完了♪」

ニッと笑った彼は躊躇いもなく二丁の引き金を引く。
銃口から、魔力の弾が放たれた。




Dramatic Record ~Part 44~

「ルールは?」

ビャクヤが確認をしてくる。

「武器の使用は可。魔法…と、精霊はなしで。武器の能力についてはここを破壊しない限りはOK」

彼の問いにシュウが答え、残りの2人も異論はないのか首肯している。
確認が済むとレイナとシュウ、コウリュウとビャクヤに分かれ実習場の中央に向かい合うようにして対峙した。

シュウは結い紐につけた鈴へ、コウリュウは腰に下げている飾り珠に、ビャクヤは腰のホルスターへと手を伸ばす。
レイナはというと、地面へと視線を向け「月影」と小さく呟いている。
すると影がざわめき一筋の黒い何かが伸び上がった。
彼女はそれを手掴み(実体を持っているようだ)何かを引き上げるような動作をする。
黒い何かはその動作に従うような動きを見せたかと思うと、徐々に形を取りはじめ、ついには紅い柄に金の鍔と漆黒の鞘を持つ刀へとなった。

それを見ていた実習場に集まる生徒と教師たちは驚いた表情(カオ)をする。
何だあれは、あんなものは見たことがない、と声が聞こえてくる。
しかし当事者と親しい者たちは知っているようで、何の反応もなくそれが当然というような顔をしていた。

「4人とも準備はいい?」

少し離れた場所に居たファゼが頃合を見て口を開く。
特に何の反応もなく無言の肯定を見せた4人の姿に、隣に佇んでいたエミリアと共に1つ頷くと腕を掲げ、
「それでは始め!」
と、言葉と共に掲げていた腕を勢い良く振り下ろした。




Dramatic Record ~Part 43~

「覚醒、紅桜」
「響鳴、瞬禍、絶禍」
「輝け、蒼月」
「発動、黒銀」

教師や生徒たちの見守る中、実習場の中心にいるのは4人。
それぞれ手に持つ得物へ声をかけ、戦いの火蓋は切って落とされた。


◆◇◆◇◆


事の始まりは何気ないこと。
生徒会4人組が中庭で思い思いに過ごしていた時だった。(ちなみに現在は放課後だ)

話が戦闘関連のことになったのだ。

元々彼らはそういった事に携わる者。
あっという間に話に花が咲き、いつの間にか教師人で誰が強いかという会話になっていた。

「ここは普通に考えたら学園長だよなぁ」
「ビャクヤ先生もお強いですわ」
「リュウオウ先生も中々いけると思う」

芝に腰を下ろし3人が自分の意見を言い合う。
その傍で同じく座り込んでいるレイナは3人の会話に入らず何かを考えているようで。
それに気付いたシュウが声をかけてきた。

「レイナ、どうした」
「ん、みんなの戦闘能力を考えてただけ」

その言葉にきらりと目の端を輝かす者が1人。
ファゼだ。

「そういえばレイナ嬢もシュウも有名所と幼馴染だっけ。どれくらい強いとか判る?」
「まぁ、大体は」

彼の好奇心いっぱいの質問に苦笑しつつ答えてやる。

「総合面で見るとコウ(双子兄のことだ)が一番かな。属性は防御系だけど本人が高い攻撃能力を持ってるからバランスがいいの。次はやっぱりビャクヤね。得物は中・遠距離だけど特異な戦闘スタイルが強力な近距離攻撃を可能にしてる。防御の低さが惜しいわね。3番目は意外にもエンよ。あの素早さで相手を翻弄し鋭い刃で的確に急所を狙ってくるから結構厄介かな」

ただ攻撃に重みがないから防がれるとダメージを与えられないのよね。
そうやってレイナは彼らの特性などを上げていく。

「よく、見てますわね」
「まぁね。それに何度も手合わせしてるし、互いの癖とかも理解してる感じかな」
「いいなぁ、有名所と仲良いのって」

ファゼの結構本気で羨ましがっている声にレイナは「案外そうでもないわよ」と言って苦笑してみせる。
その言葉の真意がわからず首を傾げる彼らに、後ろから声がかけられた。

「なーに面白い話してるんだ?」

声のした方を見やるとそこに居たのは話の渦中にいた2人、コウリュウとビャクヤだ。
この2人はなんだかんだと仲が良く、2人一緒に居る姿を見かける事が多い。

声をかけてきたのはビャクヤなのだろう、4人組を覗き込むように身を屈めている。

「ちょっと前から会話が聞こえていたぞ」

そう言ったのはビャクヤの更に後ろに居たコウリュウだ。
言霊使いでもある彼のことだ、風に乗る彼らの会話が聞こえてビャクヤを伴いここまで来たのだろう。

「あら、盗み聞き?」
「んなわけないだろ」

茶化すようにレイナが言えば、コウリュウが軽く小突く。
微笑ましいなぁ、なんて考えていたビャクヤがふと思いついたように声を上げる。

「なぁ、久々にやるか?」

彼の主語を抜かした言葉。
しかしそれは正確に伝わったらしい。

「ん、いいね。久々にやろ」
「最近身体動かしてなかったしな」
「まぁ、たまにはいいか」

上からレイナ、シュウ、コウリュウ、の順に応じると、立ち上がり伸びをする。
4人の話を黙って聞いていたファゼの目はキラキラと輝き、エミリアは呆れの溜息を吐き出す。


こうして2対2で手合わせすることになったのだが、どこから聞きつけたのか実習場には多くの教師と生徒が観戦に集まったのだった。



 


Dramatic Record ~Part 42~

鬱蒼と生い茂る森の中、もう少し歩けば岩山(それもかなりの標高)に行き当たるだろう場所まで来た2人組みは絶賛探し物の真っ最中。

「あ、見つけた」

と、2人組みの片割れ、レイナが上を見上げ声を上げる。
それに釣られて残りの片割れ、シュウも頭上を見やって絶句。
2人の視線の先には高く聳える岩山。
その中腹辺りに見えるのは、鳥の巣。
ただし、地上からでも視認できるほど巨大な、だ。

「なぁ、レイナさん」
「何でしょうかシュウ君」
「あれさ、依頼書内容より大きいよな」
「明らかにね」

「「………」」

しばしの問答の後に訪れる沈黙。
一瞬後、辺りに響いたのは…。

「あんの学園長が!!事前調査くらいしっかりやれよ!」

シュウの怒声だった。
どうやら依頼の内容に一部誤りがあったようで。
彼はウガーっと唸り声を上げて憤慨している。

「ふ、ふふふ…くっくっくっ…」

叫ぶ彼の隣で怪しげな笑いを漏らすのは言わずもがな、レイナだ。
くつくつと笑う様は恐怖以外の何者でもない。

「これは、一度学園長を沈めないといけないわね」

ゆらり。
ふらっと動くそれは影がざわめいている。
怖い怖い!と、隣のシュウは声なき悲鳴を上げていた。

「うふふ…。帰ったら、どう遊ぼうかなぁ」

ああダメだ、完全にキレてらっしゃる。
シュウはくつくつと笑うレイナに涙目。
それは今の状態の彼女に近づいてはいけないという長年の付き合いからくる経験だった。

「精霊召喚、ちび助」
「リュキュ!」
「あーあーあー…」

チビ召喚しちゃったよどうすんだ。
学園に置いてきた白九龍を呼び寄せる辺り、彼女のキレ具合と本気が窺える気がする。
こうなるともう彼女を止めることは出来ない(※矛先が自分に向けられたくないだけとも言う)。

「魂共鳴」

レイナがそう言葉を発すると同時に白九龍の身体が白く輝きだす。
そのままそれは光の球体へと姿を変え、レイナの中へと吸い込まれていく。
光が完全に消えた後には、彼女の髪は白銀に、瞳は青藤色に変化していた。
その色彩は彼女の中に吸い込まれた白九龍と同色で。

「ちょっと行ってくるわ」
「はいはい」

いってらっしゃい、と手を振り送り出す。
彼女はそれを視界の端に捉えつつ、背に白い翼を出現させた。
形状は蝙蝠の翼によく似ていて、白九龍の背に備わるものと同形状。
直ぐに白九龍のものだと理解できた。
レイナは翼をはためかせ飛び立つと、件の鳥の巣まで行ってしまった。

「にしても、久々に見たな」

彼もあれを初めて見た時は心底驚いたものだ。

『魂共鳴』とは、彼女とそのガーディアンだけが出来る特異技。(※誤字にあらず)
契約主の中にガーディアンを取り込むことで通常の共闘よりも戦闘能力が格段に上がるのだ。
しかし1つの肉体に2つの魂が存在することは通常ありえないことであり、心身ともにかなりの負担があるだろう。
規格外の彼女だからこそ出来ることであり、他者には絶対真似する事の出来ないものだった。

彼が色々考え込んでいる間にも上空では一方的かつ凄惨な戦いが繰り広げられている。
時々舞い降りる羽に、彼はそっと手を合わせた。
恨むなら依頼を遣した依頼主にしてくれ、と。

本日の戦利品:鳥の肉(結構美味しかった)と巨大卵。
負傷者:学園長(帰還したレイナの手により病院送りにされていた)。




Dramatic Record ~Part 41~

「んん?」
「あっれー?」
「……誰、ですの」

顔を合わせた途端、3人共に首を傾げてくれやがりました。


◆◇◆◇◆


ただ今の時刻、13時5分前。
もう少しで授業開始という時間になっても未だ現れない少女に、どうしたのだろうと心配する声が上がった時だった。
ダンスホール(次の授業は礼儀作法でダンスの練習だ)のエントランスが不意に騒がしくなる。
声に耳を傾けてみると「どこの子だ」や「綺麗…」などの言葉が聞こえ、顔を付き合わせ話していた生徒会4人組みのうちの3人、シュウ、エミリア、ファゼたちはつられる様にしてエントランスへと顔を向ける。

生徒たちの視線の先にいたのは白銀の髪に青藤色の瞳を持った少女。
見た目は恐らく自分たちと同じ歳だろうが纏う雰囲気はとても大人びている彼女は、上品なドレスを身に纏う。
白く滑らかな肌にはうっすらと化粧が施され、鮮やかな紅のひかれた唇はいっそ煽情的とも言える。
正に綺麗と評するに相応しい少女は、つい…と視線を動かしたかと思うとシュウたちへとそれを向ける。

「……っ」

視線を向けられ、知らず喉がヒクつく。
なんだろう、これは。
見つめられただけで胸が高鳴り息苦しい。

白銀の麗人は視線を合わせたまま、ゆっくりとこちらへ歩みだす。
すると、自然と道が開けさながらモーゼのような光景となる。
彼女自身が淡い彩色だからなのか、ダンスホールの窓に嵌め込まれているステンドグラスの放つ光に当てられ、周囲が輝いて見える。
コツ…、コツ…、と靴を鳴らし歩く姿に、3人の胸は更に高鳴った。

「「「……」」」

3人は声を出すことが出来ない。
そんな姿を見つつ、麗人がゆっくりと口を開く。
そしてようやく声帯を振るわせ鈴を転がすかのような声(※想像です)を発したかと思いきや。

「なんでみんな固まってるの」

麗人の口から発せられた声は、よく知る人物のものだった。
まぁ、たしかに綺麗な声ではあるのだが…。
知ってしまった瞬間、一気にその場を支配していた緊張感が吹っ飛んだ。

「んん?」
「あっれー?」
「……誰、ですの」

思わず漏れた言葉には、否定したい気持ちがありありと浮かんでいて。
そうして冒頭の会話へと戻ることとなる。


◆◇◆◇◆


「シュウ、覚えがないとは言わせないわよこのヤロー。ファゼは人を指差すんじゃありませんその指へし折ってやろうか。エミリア嬢も、この期に及んで『誰』はないんじゃないかしら?」

ニッコリ、ニコニコ。

後ろに溢れるどす黒い魔力の靄のような物が怖いだなんて口に出して言うことは出来ない。
言ったが最後、失ってはいけないものがなくなってしまう気がする。

「あー、その言い方は」
「間違いなく」
「レイナ、ですわね」

3人は順に言葉をつなげていく。
ここでまだ惚(とぼ)け様ものなら一体どうなることやら、考えるだに恐ろしい。
よほど機嫌が悪いのだろう、白銀の麗人---レイナは、黒い笑みを浮かべどす黒い魔力を消してくれる気配はない。

「それ、どうしたんだ」

あまりの怖さに誰も声をかけられない中、やはりと言うべきか、シュウが生徒たちの気持ちを代弁してくれる。

「………のよ」
「ん?」

うつむきぼそりと発せられた声は小さく聞き取れない。
余談だが、この時シュウは『結い上げて晒されてる項が色っぽいなぁ』と考えていたらしい。
後日親友(ファゼ)に打ち明けているのが確認されている。

「だから、ちーちゃんが悪戯で中に入ってるの!」

「「「「「は?」」」」」

「あ、やっぱり」
「中に入る?」
「何のことですの…」

わかっている者2名、わからぬ者多数。
みなが首を傾げる中、2人の会話は進んでゆく。


結局理解できたのは彼女のガーディアンのせいで髪と瞳の色が変わっていること、服はダンスホールへ向かう途中にルリとコウヤにつかまり着せ替え人形よろしく遊ばれたということだけだった。



 



Dramatic Record ~Part 40~

数居る仲間の内で最も希少だった俺たち。
そんな中でも更に異質だった俺は常に独りで。
そんな、誰とも関わろうとしなかった俺に手を差し伸べて笑いかけてくれたのは貴女だけだった。

共に行こうと言ってくれた時、どれ程嬉しかったか。
優しい声音で名を呼ばれる度、俺の心は歓喜に震える。

あの時、俺は俺自身に誓った。

主と定めた貴女のその命が消えるまで、何があっても傍に居ようと。


◆◇◆◇◆


≪月影≫

優しい声が聞こえる。
その声に誘(いざな)われ、闇の中沈んでいた意識が浮上していく。
呼ばれたのだと理解したと同時に文字通り闇にたゆたっていた身を浮上させ、地上へと姿を現す。

「お呼びですか」

闇(正確には影だ)から姿を現したのは闇色の体躯に金色の瞳を持つ人語を解す獣だ。
姿は狼に酷似しているがその大きさは狼の比ではなく、大の男が2人は乗れるかというほど。
そんな闇色の獣---月影は主へと恭しく頭を下げ言葉を待つ。

「ん、最近会っていなかったから。それに今日は天気がいいから久々に、ね」

月影に傅かれている少女---レイナは微笑を浮かべ言葉と共に頭を撫でてやる。
気持ち良いのかグルグルと喉を鳴らし手に擦り寄る姿は大きな猫のように感じると、笑顔の下考えてしまう。

「しかし、よろしいので?まだ授業の時間なのでは…」

レイナが何を言いたいのか正確に読み取った月影は心配気に訊いてくる。
その言葉には大切だからこそ迷惑になる様な事はしたくないという思いが込められていて。
月影同様にしっかりとその気持ちを読み取った彼女は笑って続ける。

「いいのよ、私がそうしたかったの。だから一緒に日向ぼっこしよ」
「……わかりました」

しばしの葛藤の後、月影は承諾する。
とたん、レイナの顔には満面の笑み。

「それじゃいつもの場所へお願い」
「御意」

月影の是とする言葉を聞くや否や、レイナはそれの首へと腕を回す。
それを確認した獣は己と主の繋がった影を見て一言。

「闇渡り」

そう呟かれたと同時に彼らの影が蠢く。
蠢いていた影は次の瞬間実体を持つと1人と1匹を呑み込み消えた。

影の消えたその場には、彼らの姿はなかった。